伴名練編『新しい世界を生きるための14のSF』
日本の新人SF作家の短編を14篇集めたアンソロジー。選択の基準は「2022年5月現在で、まだSFの単著を刊行していない」こと。
伴名練さんの作品がすばらしかったので、ほかの現代日本SFも読んでみたくて選んだのだが、予想以上のレベルだった。SFのアイディアもさることながら、それを物語に組み込む手際や描かれている感情の彩りや複雑さがすばらしい。
各作品にはジャンルが指定されていて、作品のあとにそのジャンルの日本SFの過去から現在にいたる流れが解説されている。目次にかかれているが、ぼくは目次を見ずに読んだので、このジャンルを推測するのがおもしろかった。このジャンルがなかなか独特で編者の見識をうかがわせるものだった。
以下、備忘録として各作品の要約を含んだ目次をのせていく。個人的に特にすばらしいと思った作品のあとには◎記号のあとにひとことコメントを付け加える。
- 八島游『Final Anchors』
- 車両衝突まで残り 0.488秒。AIによる「最後の審判」、開始。
- ジャンル【AI】
- 斜線堂有紀『回樹』
- ふたりで過ごした恋人の日々。取調室でいまは、ひとり。
- ジャンル【愛】
- ◎ 愛する人を失った直線的な哀しみではなくその感情との距離感やさらに人を弔うということの意味について考えさせる作品
- murashit『点対』
- いや俺やってないですってマジで。僕じゃなくて双子のアイツですよ。
- ジャンル【実験小説】
- ◎ 文字の配置によって視点や年代が移り変わる技法と、地方の鬱屈した風景の描写がいい(電子書籍では画像だ)。
- 宮西建礼『もしもぼくらが生まれていたら』
- 小惑星衝突が迫る日々のなかで、ぼくらは衛星構想コンテストを目指した。
- ジャンル【宇宙】
- ◎ ジュブナイル的な作品と思いきや、舞台設定に大きな企みがあり、最後に明らかになる。すばらしい。【改変歴史】に分類してもいい気がする。
- 高橋文樹『あなたの空が見たくて』
- 海旅行で出会った地球人から後日届いた、彼の最期の映像記録。
- ジャンル【異星生物】
- ◎SF的なアイデアがすばらしいし、それがなんともいえない叙情性と溶け合う。
- 蜂本みさ『冬眠世代』
- わたしたちは冬眠をする、最後の世代。四季を生きる熊々の温かな物語。
- ジャンル【動物】
- ◎クマがかわいいだけじゃなく、ある種族的な習慣が消えていくことのメタな喪失感を年代記的に綴っている。
- 芦沢央奉『九月某日の誓い』
- 奉公先のお屋敷に不審な男が迫る。操様の秘密を外へ知られてはならない。
- ジャンル【超能力】
- 夜来風音『大江戸しんぐらりてい』
- 徳川光圀の命を受けての和歌研究は前代未聞の算術長屋を生み出した。
- ジャンル【改変歴史】
- 黒石迩守『くすんだ言語』
- 普遍的な意思伝達を可能にする中間言語。その言葉は人と世界を侵食していく。
- ジャンル【言語】
- 天沢時生『ショッピング・エクスプロージョン』
- 探せ。当店のすべてをそこに置いてきた。増殖する商業施設をめぐる電脳冒険ロマン。
- ジャンル【環境激変】
- ◎ ポップで疾走感あふれる文体。サンチョ・パンサというギミックが笑える。
- 佐伯真洋『青い瞳がきこえるうちは』
- 仮想空間でのスポーツが普及した日本。俺は創のために、幻の卓球台に立つ。
- ジャンル【VR/AR】
- ◎ 卓球というスポーツ、盲者の感覚などの細かい描写がリアルかつ詩的ですばらしい。
- 麦原遼『それはいきなり繫がった』
- あの感染症が広がった翌年のこと。僕たちの世界に〝向こう側〟が現れた。
- ジャンル【ポストコロナ】
- 坂永雄一『無脊椎動物の想像力と創造性について』
- 巨大な蜘蛛の巣に覆われた京都市。それは彼女の遺した新世界。
- ジャンル【バイオテクノロジー】
- ◎ たいていの生物パニックものは読んだあと多少でもその生物がこわくなったりきらいになったりするものだけど、これは蜘蛛のすばらしさに感心する。
- 琴柱遥子『夜警』
- こどもたちは今日も流れ星に祈る。星はとても、恐ろしいものだから。
- ジャンル【想像力】
★★★