村田沙耶香『変半身(かわりみ)』ebook

変半身(かわりみ) (単行本)

松井周×村田沙耶香のコラボ企画。松井周による舞台をみたので、当然のこととして村田沙耶香による小説版も読んでみた。

演劇版と共通するのは千久世島という離島が舞台であることと、「もどり」という秘祭の存在くらい。芝居ではけっこう重要な役割を果たした、ボーボー様とボビ原人というこの島に伝わる神話は、その内容まで深くは言及されない。

枠組みだけを使って『地球星人』の人物類型と問題系をほぼそのままもってきた作品だった。なんといっても分量が短い。演劇はそこまでやるかというくらい何重にもこの枠組みを複雑化させていたが、こちらは序盤であっさりといったんすべて壊してしまう。

ラストでいったん壊した枠組みが再構築される。とにかく強引なのだが。あまりにも強引すぎて逆にありなのではないかと思わされた。このラストの強引さを味わうためだけに読む価値はある気がする。

もう一編収録されている『満潮』という作品のほうは文句なくいい。体液を排出することを目的とする性の形式になじめず、摂家素レスになっていた夫婦がそれぞれ「潮吹き」という現象に挑戦することによってあらたな心の結びつきを得る物語。キーワードをたどるとおいおいといいたくなるが、切実さを感じる作品だ。村田沙耶香作品に通底するテーマの一つである自分の性に対する疎外感、異物感が、これまでの作品ではつきぬけてあらぬ方向にいってしまっていたのが、この作品ではきちんと提示、展開されているように思う。

★★