加藤陽子『戦争まで 歴史を決めた交渉と日本の失敗』ebook

戦争まで 歴史を決めた交渉と日本の失敗

読み始める前は全く意識してなかったが、もうすぐ終戦記念日。いいタイミングで読むことができた。

『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』と同じく中高校生に対して行った講義をまとめた本。『それでも』は、明治維新以来日本が関わった4つの戦争について、その意思決定を取り上げた本だが、今回はその中で最大で最悪の戦争、太平洋戦争(前哨戦の日中戦争を含む)に絞って、そこに至るまでに引き返せたかもしれない3つのターニングポイントの交渉における意思決定を扱っている。その3つとは、リットン報告書への対応、三国同盟締結、日米交渉だ。

リットン報告書は1931年の満州事変から翌年の満州国建国という事態を受けて国際連盟の調査団が作成した報告書。かなり日本の状況に配慮した内容だったにもかかわらず、日本は報告書を受け入れず国際連盟脱退を決断する。

三国同盟は、日独伊三ヶ国が1940年に締結した軍事同盟で、わずか20日間で結ばれた。なぜそんなに急ぐ必要があると考えたのか。

そして1941年の開戦直前まで続けられた日米交渉。首脳会談の目前までこぎつけながら、双方のボタンの掛け違いから頓挫し、日本軍の真珠湾攻撃という事態になった。

それぞれについてどういう経緯で意志決定がされたのかを残された資料をベースに単塩に解き明かしている。

今でもそうだけど、戦前のこの時期も、実際の政策の検討を行っているのは課長級、佐官級の官僚、軍人たちだったようだ。彼らの発言を読むと状況をちゃんと分析できていて驚く。それがなぜ実際の決定に反映できなかったのかというのにはいくつか理由がある。国粋主義団体によるテロによる恐怖、陸軍、海軍、政府それぞれの予算確保やメンツなどのセクショナリズム、教育や情報のない国民の過激な民意。

この本を読むのと同時進行で、日本政府による韓国の輸出ホワイト国取り消しがなされていて、本書の内容とまるまる重なって見えた。これくらいなら大丈夫だろうと、国内の事情や民意を忖度してひねりだした策なんだろうけど、それがそのまま相手に受け取られることはない。太平洋戦争の失敗の反省はまったく現在の政策にいかされてないな気がした。

膨大な犠牲をはらったあの戦争に意味があるとすれば、その反省だけだと思う。目を背けたり、美化したりするのではなく、きちんと歴史を検証し、そこから学んでいくtことが大切だとあらためて心に刻んだ。

★★★