小田中直樹『歴史学って何だ?』

歴史学ってなんだ? (PHP新書)

少子高齢化のおり、人文系の学問に対して、そんな役立たないもの学んでどうするのというような風当たりが強くなりつつある。本書はその標的のひとつといっていい歴史学について、存在意義を解き明かそうとしている。具体的には、ほんとうに史実を明らかにできるのか、そしてそれは社会の役にたつのかという、二つの問いに答えようとしている。

最初の問いに関しては、懐疑主義、構造主義の洗礼にさらされたあとでは、客観的に正しい史実が存在するとはいえなくなっている。でも筆者は、100%の正しさはなくても、コミュニケーショナルに、できるだけ多くの人の同意が得られるような正しさはあるんじゃないの?そして、そのコミュニケーションの中で、より正しい解釈を見つけていくことができるのではないかという。ちょっと、ありきたりで楽観的な気もするが、良心的な解答だ。

もうひとつの問いについては、わざわざ例を探し回らなくてもYESといえる。社会の統合にはある程度統一した歴史認識があったほうがいいし、逆に自分たちがこうあるべきだと考えるアンデンティティを歴史的なある特殊事情のもとにうまれたものであることを示して相対化することもできる。ただし、社会の役にたてば何でもいいわけではなく、(コミュニケーショナルな)正しさありきでなくてはならないし、社会以前に個人の日常生活に役立つツールを目指すべきだという。

終章で、「教養=コモン・センス」について書かれた言葉には含蓄がある。浅羽通明の言葉をひいて、「教養=コモン・センス」を「考え方のモデルのカタログ」と定義して、それを身につけるためには、驚嘆する感性を大事にしてあらゆる考えに心を開きつつ証拠には厳しい水準を求めることだ、というセーガンの言葉を引用している。そんな「教養=コモン・センス」をぼくも身につけたい。

★★