茂木健一郎『脳内現象 はいかに創られるか』
永井均の<この私>の謎に脳科学の側から迫ろうとした本。
科学的には脳内の1000億の神経細胞の活動から意識がうまれることに間違いない。脳内を見渡す「小さな神の視点」、「感覚的クオリア」と「志向的クオリア」、「メタ認知」という興味深い概念を最新の脳科学の知見をまじえて紹介したあと、本書では主体の構造のモデルとして「メタ認知的ホムンクルス」というモデルが提案されている。外部からの刺激で脳内に擬似的な客体が生まれ、それにより脳内の各領域に起きた神経細胞の活動の関係性を擬似的な主体がメタに把握するというモデルだ。自分の理解のためにコンピュータの比喩で擬似的な客体がデータ擬似的な主体がプログラムとすると、プログラムが意識を持つわけではなくデータの集合が意識になるわけでもなく、プログラムがデータを処理する関係性の中に意識が生まれるということになる。
もちろんこれは仮説であり、しかもなぜ意識が生まれるかという説明には至っていない。今の科学の枠組では意識というものの本質をとらえることはできず、何らかのブレイクスルーが必要だと、筆者は書いている。科学的には人間が今とまったく同じ行動をするものの意識をまったく持たない「哲学的ゾンビ」であることも可能なのだ。もちろん自分が「哲学的ゾンビ」でないことは自分が一番よく知っている、というか自分以外知り得ない。
結局謎は謎として残る。そういう意味で、この本は宝の地図のありかをかいた地図(あるいはそのまた地図)だと思う。その先にほんとうに宝があるかどうかはわからないけど。