戸山田和久『科学哲学の冒険 サイエンスの目的と方法論を探る』
科学(正確には自然科学)は人間の知的活動の中でもっとも成功しているものといっていいだろうが、それじゃ、その科学っていったいどういうもの?といったことを研究している学問も別にあって、「科学哲学」と呼ばれている。
その中にはいろいろな立場があって、たとえば電子の存在についても合意できていないし、中には科学の語る心理なんてすべて社会的な関係の中から生まれたものだという立場もある。筆者は、電子など直接的に検知できない対象の存在や基本法則の正しさを信じる実在論という立場にたっていて、それを基礎づけるのが本書の目的のひとつだ。簡単なように思えるが、哲学は当たり前のことを疑うのが仕事なので、一筋縄ではいかない。
結局は、観察するだけでなく実験などで電子を操作できているということは、実在しているといっていいのではないかとか、基本法則というのは直接的に現象について語っているのではなく、それを抽象化したモデルについて語っているのだから、基本法則の厳密な正しさではなく、モデルと実際の現象がどの程度似ているかがポイントだ、というごく穏当なところに落ち着いているが、それまでの道のりが長い。
本書は、科学哲学の教師である「センセイ」、理系専攻のリカという女子学生、哲学専攻のテツオという男子学生の対話形式で書かれている。確かに、読みやすくはなっていると思うが、対話の中で議論が深まるという構成になっていないのでそうする必然性はあまり感じないし、そのせいでページ数が増えているのではないかとも思わせる。でも、本編の最後で、リカとテツオが雪の中一本のマフラーを首にまいて帰っていくシーンは科学と哲学の結婚という科学哲学のあり方を象徴的に示していて、このシーンだけのために、対話形式を採用したのかもしれない。
★★