遊園地再生事業団『ヒネミの商人』
ぼくが演劇をみはじめたのは世紀末も押し迫ってからからなので、1990年代前半のヒネミシリーズには立ち会えてない。ヒネミシリーズは今はもうないヒネミという田舎町を舞台にしたサーガ的な作品群で、『ヒネミの商人』はそのヒネミシリーズの2作目だ。この作品単独ではヒネミという町が今はもうないことはわからない。ただ、(初演の1993年当時からも)過去の話であることは、人々のお金に対する鷹揚な態度やいちまんえんの肖像が聖徳太子であることからわかる。
そう、テーマはお金だ。タイトルはシェークスピア『ヴェニスの商人』のもじりで、物語のベースの一部になっている。お金に翼が生えたように軽やかに流れる時代。ニセ札を気軽に作ろうと思ってしまうくらい……。この芝居は長く続いたそんな時代の終わりに作られた。そういう作品をお金が有限で貴重な資源だという誤解があまりにも長く続いたこの時代に見られるのは奇縁としか言いようがない。
舞台は町の小さな印刷屋。その社長は背中に何かが貼りつくような奇妙な感覚に悩み、義姉から持ち込まれた融資の連帯保証の話を受けていいものか迷う。都会から支店開設のためにやってきた銀行員は次から次へと持ち物をなくしていき、「私ダメなんです」という女性旅行者は何度道を教えられても目的地にたどり着けない。男たちは「ウルトラ」という謎の薬に消耗させられ、そして二つしかないはずなのに、三つ目の箱がどこからかあらわれる。
いつまでも平穏に続いていきそうな日常。しかし、それは一見笑ってしまうような奇妙な出来事や偶然のいたずらで脅かされている。そのことにまだ誰も気がつかない。そんな静かなひとときを描いた作品だった。
シリーズ最初の作品『ヒネミ』がぜひみたくなった。再演してくれないだろうか。
作・演出:宮沢章夫/座・高円寺/自由席4800円(特別先行割引)/2014-03-21 19:00/★★★
出演:中村ゆうじ、宮川賢、片岡礼子、ノゾエ征爾、笠木泉、上村聡、佐々木幸子、牛尾千聖、山村麻由美