チェルフィッチュ『三月の5日間』

三月の5日間

作・演出:岡田利規/神奈川芸術劇場中スタジオ/自由席3500円/2011-12-18 18:00/★★★★

出演:山縣太一、松村翔子、武田力、青柳いづみ、渕野修平、鷲尾英彰、太田信吾

岡田利規が岸田戯曲賞をとり、チェルフィッチュが現在のワールドワイドな評価をかちえるきっかけになった作品の再演。初演は2004年だが、ぼくは初見。

3月というのは2003年の3月。アメリカのイラクへの空爆を端緒としてイラク戦争がはじまった。ちょうどその日の夜知り合った男女が渋谷のラブホテルにいって、それから4泊5日、ひたすらセックスをしまくる。別に彼らは欲望に突き動かされていたわけでもなく、相手への執着があったわけでもない。彼らにしてみれば、渋谷にいながら海外の街にきているような不思議な感覚を楽しんでいるだけだった。彼らはこの5日間のあとは二度と会うのはやめようとどちらからともなく言いだし、約束する。

最後の朝、二人で円山町のホテルから駅まで歩き、そこで別れる。そのあと女性はまだ日常に戻りたくなくてひとりでもう一度ホテルのそばまで戻り、奇妙な光景を目撃する。最初道ばたにうずくまる犬かと思うがそれは大便をするホームレスだった。彼女は嘔吐する、自分がそれを人間だと認識できなかったことに対して。そしておそらく、人を人として尊重することのできない戦争という状況、またはぼくたちの想像力に対して、嘔吐する。彼らの5日間は、そういう嘔吐を催すような状況から逃れ、人間らしさを感じるための、一種宗教的な祭りのようなものだったのだ。

劇場から外に出てそこが渋谷でなく横浜であることに違和感を感じた。彼らといっしょに自分までずっと渋谷にいるような気分だった。