『ハーパー・リーガン』

『ハーパー・リーガン』

作:サイモン・スティーヴンス(訳:薛珠麗)、演出:長塚圭史/PARCO劇場/指定席7500円/2010-09-11 19:00/★★★★

出演:小林聡美、山崎一、美波、大河内浩、福田転球、間宮祥太朗、木野花

失業中の夫とカレッジに通う17歳の娘、3人の生活を女手一つでささえるハーパーは、死期の近い父親に会いにいくため上司に休暇を申し出るが、拒絶される。しかし、彼女はその夜誰にも告げずにひとり旅立つ、観客すらも知らないうちに。

この作品で描かれているイギリスの社会状況は日本と似ているところがある。厳しい雇用情勢、自己責任的な社会。2007年の戯曲なので当然のようにインターネットも登場していて、中立的ではあるが、これまでの秩序を乱すようなどこかリスクをはらんだものとして描かれている。出会い系、児童ポルノ、旧メディア産業の衰退……。そして、若者は未来に対して希望をもてず、差別的な言動が横行するとともに信仰の重要性が叫ばれ、社会は再び魔術化されつつあるようにみえる。

ハーパーは短いようで長い2日間の旅の中で、起きたことや感じたことを包み隠さず率直に表現する。それが彼女にかけられていた魔術をはらしていくことになる。より公平な視点から、現在自分が置かれている状況や身の回りの人々のことをながめられるようになったのだ。それは幻滅をともなうものであったはずだが、その幻滅も彼女はのりこえてゆく。

ハーパーを演じた小林聡美がよかった。彼女が演じる凛として芯の強い女性はほんとうにいい。そのほかの俳優たちもよかったが、ひとりあげるとすればハーパーの母親を演じた木野花。彼女がいう、期待感でいっぱいになって、人生がはじまるのをずっと待っていた、でも、あれこそがね、あたしの人生だったのよ、という言葉がずしんと響いた。