KAATカナガワ・ツアー・プロジェクト『冒険者たち JOURNEY TO THE WEST』

2026年の初観劇は、少し足取りの定まらない一歩から始まった。まだ身体も感覚も「観劇のリズム」を思い出しきれていない。そんな状態で向かったのが、「KAATカナガワ・ツアー・プロジェクト」第1作の再演である。
KAATカナガワ・ツアー・プロジェクトは、神奈川県内各地を舞台に物語を展開するというユニークなコンセプトの音楽劇シリーズだ。土地の記憶や風土を物語に編み込みながら、観客を県内のさまざまな場所へと連れ出していく。
本作は『西遊記』の翻案。三蔵法師一行が長安から天竺へ向かう旅の途中、離れ離れになり、なぜか現代の神奈川県へ迷い込むという、大胆な設定だ。古典的冒険譚とローカルな地理が衝突し、ずれる。そのずれこそが、このシリーズの醍醐味でもある。
出演者の中で気になっていたのが成河さん。三蔵法師か孫悟空か、いずれにせよ中心的な役どころだろうと想像していたが、実際には「神奈川県」そのものを体現する役。各地の神々を演じ分ける存在として舞台に立つ。
この発想の転換が面白い。この物語の主役は英雄ではなく、神奈川という場所ということなのかもしれない。
第2作『箱根山の美女と野獣/三浦半島の人魚姫』は2年前に鑑賞済みだが、個人的にはこちらのほうが、箱根や三浦半島といった土地の地誌性がより色濃く語られていて印象深かった。各地の物語が土地と強く結びつき、観客に具体的な風景を想起させる力があった。
第1作はシリーズの出発点らしく、コンセプト提示の側面が強い。西遊記という広く共有された物語を足場に、「神奈川を舞台にする」という試みを提示する。その意味で、実験性と導入部としての役割を担った作品と言えるだろう。
観劇のリズムがまだ戻らない中での鑑賞だったが、出演者は芸達者だし、物語の進行と一体化した角銅真実さんの音楽も素晴らしかった。また、舞台にあらわれない猪八戒による神奈川県グルメレポートもなかなか楽しかった。全体としても、神奈川県の具体的な地名が、古典と結びつくことで異化される。その違和感を楽しむことこそが、このプロジェクトの“冒険”なのかもしれない。
作・演出:長塚圭史、共同演出:大澤遊/神奈川芸術劇場中ホール/メインシーズンパスポート(35700円)/2026-02-12 19:00/★★
出演:柄本時生、菅原永二、佐々木春香、長塚圭史、成河、角銅真実(音楽・演奏)