阿佐ヶ谷スパイダース『桜姫〜燃焦旋律隊殺於焼跡〜』

桜姫〜燃焦旋律隊殺於焼跡〜

四代目鶴屋南北の歌舞伎『桜姫東文章』が原作であることはそのストーリーも含めて見終わった後知った。

そうしてみると舞台をみてあっけにとられた物語展開のうちそれなりの部分が原作のお手柄だということがわかった。しかし、舞台と原作はまったく別物だ。年代が江戸から昭和の戦争前後に移しかえられていて(開演前や幕間に流れる昭和歌謡がいい)、清玄は貧しい孤児を助ける篤志家、桜姫は金持ちに見初められた元孤児という設定だ。おまけに桜姫は吉田という名でこの物語の因縁の外にいて、ギリシャ悲劇のコロス的なバンドの導きによって、自らの意志で桜姫になるのだ。

近世以前の作品に欠けているのは個人の内面で、『桜姫東文章』も例外じゃない。個人の内面を煎じ詰めれば何が残るだろうか。その回答は今回の作品で描かれていて、それは生きようという意志だ。だから、原作とは違って、物語を選んだ桜姫は殺されてしまうし、物語を進行させるバンドも虐殺される。残ったのは生きる意志を体現した、清玄(怨霊の姿なのに)と権助だ。

こうして図式化してしまうととても明快だが、その明快さが、この戯曲がいったん封印されていた理由かもしれないとも思ったりする。

桜姫を演じた藤間爽子さんすごい。

原作:四代目鶴屋南北、作・演出:長塚圭史/吉祥寺シアター/一般指定席5500円/2019-09-14 18:00/★★★

出演:大久保祥太郎、木村美月、坂本慶介、志甫まゆ子、伊達暁、ちすん、富岡晃一郎、長塚圭史、中山祐一朗、中村まこと、藤間爽子、村岡希美、森一生、李千鶴