庭劇団ペニノ『笑顔の砦』RE-CREATION

笑顔の砦

おそらくは兵庫県あたりの海沿い、薄い壁を隔てて鏡像のように並ぶ安アパートの2室。

左側にすむのは今年53歳の漁師蘆田剛史だ。彼は天涯孤独だが小さな漁船の船長であり、毎日若い仲間たちとと飲み食いしながら楽しくやっている。

右側は長いこと空き室だったが、海をみたいという認知症の老母の介護のため町役場に勤める藤田勉という男が借りる。

二人はほぼ同年配だ。

方や天涯孤独、方や家族のために生きている男。薄い壁と書いたが実際にはその壁は存在してなくてシースルーなのだが、二人の人生=世界はほとんど交わらない。この二つの世界に共通しているのはメタな内省や詩情がないことで二人ともベタな世界の住人だ。藤田はよくわからないまま『老人と海』を読み上げ、ひょっとするとそれは蘆田には理解できる詩情かもしれないが、届くことはなく、蘆田は日々の楽しい生活の向こうにある孤独を垣間見る。

孤独と介護。詩情のないこの世界で確固として存在するこの二つ。それが今の日本を覆う紛れもない現実なのだ。漁師たちの笑い声の奥にある身も蓋もない現実に、身につまされてしまう作品だった。

作・演出:タニノクロウ/神奈川芸術劇場大スタジオ/自由席4500円/2019-09-21 18:00/★★

出演:緒方晋、井上和也、野村眞人、FOペレイラ宏一朗、たなべ勝也、坂井初音、百元夏繪