野田地図『兎、波を走る』

兎、波を走る

まったく予備知識なしにみた。不思議な国のアリス、ピーターパン、桜の園などさまざまなシーンの間を言葉遊びで行き来してがどこに行き着くのか不安に思う瞬間もあったが、ちゃんとすべての言葉がつながって着地した。お見事。

以下ネタバレを含む。

最近の野田地図の着地点は現実に日本でおきた事件で、今回も北朝鮮による日本人拉致事件だったわけだが、時事ネタを扱う場合特定の感傷的な側面からみてしまうことの難しさがあるようにも感じた。具体的には、全体的に固有名詞がぼかされるなかで唯一登場する固有名詞のアンミョンジンの描き方だ。日本でマスコミや政治家が被害者や家族の人たちを利用したとしかいいようがない現象があったように思うが、アンミョンジンも多かれ少なかれその利用したひとりだったのではないかと思ってしまう。一面的に英雄として描いてしまっていいのかという違和感を感じた。

また前作『フェイクスピア』から続いて親から子への情愛にスポットライトをあてていて、個人的にはその普遍性を強調されるとついていけないところがある。人それぞれだろう。

全体的な構成は相変わらずお見事。特に冒頭にでてきて生乾きに感じられた詩的なセリフが、まったく同じ文言でラストで血肉を得た感動的にセリフに化けたのは、感動した。

作・演出:野田秀樹/東京芸術劇場プレイハウス/S席12000円/2023-07-01 19:00/★★★

出演:高橋一生、松たか子、多部未華子、秋山菜津子、大倉孝二、大鶴佐助、山崎一、野田秀樹、秋山遊楽、石川詩織、織田圭祐、貝ヶ石奈美、上村聡、白倉裕二、代田正彦、竹本智香子、谷村実紀、間瀬奈都美、松本誠、的場祐太、水口早香、茂手木桜子、森田真和、柳生拓哉、李そじん、六川裕史