『inseparable 変半身(かわりみ)』
村田沙耶香と松井周の共同原案。村田沙耶香の小説も発売されたそうだが、舞台となる離島・千久世島の設定だけ共有していて、登場人物もストーリーもまったく別物のようだ。
近未来の千久世島。人間の遺伝子にほかの生物のDNAを合成があたりまえになっていてそのための資源であるレアゲノムの採掘が島最大の産業だ。資源はゲノムパッチという巨大企業に牛耳られている。津民たちの間には「山のもん」と「海のもん」の間の歴史的な対立があり、島に残る「もどり」という秘祭で2年前に死んだ「山のもん」の若者宗男の存在が対立にあらたな影を投げかけている。そんな折、宗男が死に装束の半ば腐敗した姿でひょっこり戻ってくる。戸惑う宗男の兄秀明とその妻裕美。裕美と宗男はかつて恋人同士で、裕美は「海のもん」の有力者の娘だった。
さらに、この人間界の構造の裏というか上に神たちの世界がある。宗男も秀明も実体は神であり、千久世島に伝わる創世神話を体現する存在だ。人間界での姿はいわば仮の姿だ。宗男はいったん死んだことでそのことを知っているが、地上の秀明は、知るよしもなく、自らの葛藤をかかえて生きている。神の世界も決して安泰ではなく、自分の使った世界を発展させていく責任があり学校的なものでいい評価を得なくてはいけない。宗男が人間界にあらわれたのは衰退する人間界を盛り返すための奇策だったわけだが、それが吉と出るか凶と出るかは神々にもわからない……。
若干複雑で凝縮されたストーリー展開で感情的に右往左往させられたが、ラストの静かな悲しみのシーンでひとつにまとまった感じがする。ウェルメイドでないこういうとんがった舞台作品がもっとみたい。
原案:村田沙耶香、松井周、作・演出:松井周/東京芸術劇場シアターイースト/指定席3700円/2019-11-30 18:00/★★★
出演:金子岳憲、三村和敬、大鶴美仁音、日高啓介、能島瑞穂、王宏元、安蘭けい