『セールスマンの死』

セールスマンの死

戯曲は読んでいたがようやく舞台をみることができた。演出の長塚圭史さんがCINRA.NETのインタビューで「ほとんど演出の余地がないんです。ト書きまで細かく書き込まれているから、演出家が自分の色を出しにくい」と言っていた通りではあるが、だからこそ、戯曲をそのまま舞台に現出させるという地道な演出の力が求められているともいえる。

その演出のおかげで気づくことがいろいろあった。まず主人公ウィリー・ローマンの妻リンダはそれぞれの家族を一番愛情深く理解している一方で、実は彼の幻想の共犯者だったということ。そして、そういう幻想から自由ですべてが見えているのは仕事が続かず情けない長男ビフなのだ。ただ彼が何を言っても誰も真面目に聞こうとはしない。苦い真実をあえて知ろうとする者はいないのだ。

1949年にアメリカンドリームという甘い夢の裏にひそむ嘘と残酷さを暴いたこの作品だけど、トランプが大統領になってしまうような現代においてこそこの作品が突きつけた問題の領域は大きくなっている。アメリカ以外の国、たとえば日本でも、夢と現実の乖離は広がっている。

リンダを演じた片平なぎささん、意外なことに舞台経験はそんなにないそうだけど、堂々とした演技だった。そしてウィリーの風間杜夫さんとの共演はなんとスチュワーデス物語以来とのことで、白い手袋をかむシーンを久々に思い出したのだった。

作:Arthur Miller(訳:徐賀世子), 演出長塚圭史/神奈川芸術劇場ホール/プレビュー公園5500円/2018-11-04 17:00/★★★

出演:風間杜夫、片平なぎさ、山内圭哉、菅原永二、伊達暁、加藤啓、ちすん、加治将樹、菊池明明、川添野愛、青谷優衣、大谷亮介、村田雄浩