サンプル『グッド・デス・バイブレーション考』

グッド・デス・バイブレーション考

劇団が解散し松井周さんのひとりユニットになって初のサンプル公演。といっても観客からすると大きな違いはない。

あらゆるディストピアの要素を詰め込んだような近未来。恋愛、歌、文字の読み書き、夢を語ること、思想は禁止。しばらく前まで禁止で国家が決めたマッチングパートナーとの人工授精で子どもを産んでいたが、今では野良セックスで生まれた子どもは国家が買い上げ遺伝子の実験に使われている。食糧は慢性的に不足し、一定年齢を越えた老人は「船出」と称して自発的な死を強いられている。

完全な絵空事とはいえない世相なわけだが、この作品はその批評や批判を目的としていない。その状況を所与のものとして受け入れつつ、辺境で暮らす家族の姿を描き、その悲惨さ、過酷さの向こうに生まれる新しくて古い物語に思いをはせている。一家総出の「船出」のシーンには心を揺さぶられた。ぼくらは外に出ていける、という偽りの希望とともに。とはいえ、逃げ出せる場所なんてもうどこにもありはしない。だから、いつか未来に語られる物語という形でその種子を蓄えておかなくてはならない、

作・演出:松井周/神奈川芸術劇場中スタジオ/自由席3500円/2018-05-05 18:00/★★★

出演:戸川純、野津あおい、稲継美保、板橋駿谷、椎橋綾那、松井周