野田地図『逆鱗』
「人魚」についての物語。
野田秀樹が作り出す物語は、前半荒唐無稽ともいえる言葉遊びと比喩の奔流から、後半一転してシリアスなテーマが浮かび上がってくるという構造が共通している。前半軽快に浮いていた言葉が後半で繰り返されるときにはずしりと響くのだ。今回も、そうくるかという感じで、見事な展開だった。
ネタバレになるので書かないが今回のテーマは重く、そして救いがない。ラストで「人魚」役の松たか子があげる喉から絞り上げるような嗚咽が深く心に響いた。そこには、やるせなさが二重に重なりあっている。過去の、あの時代愚かしいとわかっていながらそれを避けることができず消えていった人たちのやるせなさと、今それを忘却し偽りの勇敢さと美しさに飾り立てられた物語に耽溺する人たちにはその嗚咽が届かないという、やるせなさだ。
余談だが、今回、特に時事ネタの下世話なギャグが多く感じた(昔からかな?)。小保方さんや野々村元市議など、時事に疎いぼくもつい笑ってしまったが、もし再演の機会があるとしたらそこは使えないだろう。
作・演出:野田秀樹/東京芸術劇場プレイハウス/A席7800円/2016-02-12 19:00/★★★
出演:松たか子、瑛太、井上真央、阿部サダオ、池田成志、満島真之介、銀粉蝶、野田秀樹、秋草瑠衣子、秋山遊楽、石川朝日、石川詩織、石川静河、伊藤壮太郎、大石貴也、大西ユースケ、織田圭祐、川原田樹、菊沢将憲、黒瀧保士、近藤彩香、指出瑞貴、末富真由、竹川絵美夏、手代木花野、中村梨那、那海、野口卓磨、的場祐太、柳生拓哉、吉田朋弘