シリーズ・同時代【海外編】『昔の女』

シリーズ・同時代【海外編】『昔の女』

作:ローラント・シンメルプフェニヒ(翻訳:大塚直)、演出:倉持裕/新国立劇場小劇場/A席4200円/2009-03-20 13:00/★★★

出演:松重豊、七瀬なつみ、日下部そう、ちすん、西田尚美

寝坊できないのでマチネーはあまり好きではないのだが、ほかに選択肢がなかった。今年は例年になくマチネーが多い年になりそうだ。

前の席は両親にはさまれて小学校低学年男子。おとなしくしていたけど、さすがに今日の芝居はつらかったんじゃないかな。理解できたとしたら逆に怖い。

シンメルプフェニヒという絶対覚えられそうにない名前の持ち主は、1967年生まれの、現代ドイツの劇作家。

引っ越し準備中の三人家族(結婚19年目の夫婦フランクとクラウディア、十代後半の息子アンディ)の家に、24年前夫と恋愛関係だったという女性ロミー・フォークトレンダーが訪ねてきて、永遠の愛を誓った約束を果たせと迫るという、映画でいうと『隣の女』や『危険な情事』を彷彿とさせるような一見古典的なストーリー。だが、時間を自在に進めたり巻き戻したりする手法は斬新だし、ユーモアが物語の案内役としてひっぱってゆくのも現代的だ。

心理サスペンスやサイコホラー的なじわじわと迫る恐怖を想像していたが、もっとフィジカルで直接的な恐怖だった。西田尚美演じる「昔の女」は内面的な狂気をはらんだ存在というよりは、確固とした意志に貫かれた復讐の女神的な存在だし、その標的となった家族たちも心理的に破滅するのではなく、物理的に破滅するのだ。

「復讐」と書いたが、それは男たちの忘却に対する復讐だ。アンディもまた、彼の恋人ティーナに対する将来の忘却の罪を、事前に罰せられるのだ。ティーナは、目撃者として、彼らの破滅を見守る。それは、ティーナの復讐でもある。

それまでユーモアで軽快にシーンが展開していただけに、クライマックスの破滅の描写がとにかく圧倒的ですばらしかった。

海外の同時代の戯曲を日本の若手の演出家に演出させるこの企画、新奇なものに触れられて単純におもしろいし、日本の演劇をおもしろくするためにとても効果的だと思うので、これからも定期的にやってほしい。