保坂和志『季節の記憶』
『プレーンソング』や『草の上の朝食』と同じく、静かな日常とそんな日々をいとおしみながいきいきと生きている人々の姿を描いた作品。ただ、登場人物は完全に入れ替わって、離婚して5歳の息子と二人で住んでいる中年男の主人公と、近所で便利屋を営む年の離れた兄妹がメインキャラクター。上の二作に比べるとユーモアの要素がちょっと後退して、日常のさまざまな出来事や人のあり方に対する哲学といってもいい考察がもっと前面に出てきている。特にその対象となるのが、子供がものを理解していく過程と、娘を連れて離婚して実家に戻ってきた女性の心の中にある凡庸さという偏りで、まさに絶好の観察対象となっている。
感傷的にしようと思えばできる話だけど、保坂和志はそういうものを断固として拒否して冷めた視線で物事を深く見つめようとしている。でも、それは冷徹ではなくどこか温かみを帯びたものなのだ。世界に対する愛着というか愛情のようなものをひしひしと感じる。
★★★