スチュアート・ダイベック(柴田元幸訳)『シカゴ育ち』

シカゴ育ち

邦題から、生まれ育った街への愛着がつまったウェルメイドな作品を想像していたが、さにあらず、むしろ前衛的といったほうがいいようなシュールなイメージにあふれた作品だった。その分読みにくさもあって、描写が続くところなどは文字の連なりを意味に変換するのにとても苦労した。おそらく重要な箇所を読み飛ばしているのではないかと思う。

ここに描かれているシカゴはとても薄汚れた街だが、ダイベックが書くと、不思議な叙情に満ち溢れた街になる。『夜鷹』(原題: Nighthawks)という作品の中にエドワード・ホッパーの同名の絵に対する言及があるけど、ちょうどあの絵の夜のカフェのような寂しげな叙情だ。その叙情をつかもうとするのだけど、どうしてもぼくの持つ貧困なイメージからすりぬけてしまう。そんなもどかしさを感じた。

★★