岸本佐知子編訳『変愛小説集』

変愛小説集 (講談社文庫)

「変」というか奇形的といったほうがいいような愛の形を描いた英語圏の短編を集めた短編集。IIを先に読んでおもしろかったので前巻も読まなくては思っているところで文庫化された。

収録作。

一本の木に偏執的な愛情を抱いてしまった人自身の物語であり、かつパートナーが一本の木に偏執的な愛を抱いてしまった人の物語でもある、アリ・スミス『五月』。

レイ・ヴクサヴィッチは2編。身体が宇宙服に覆われ宇宙へと飛び出してしまう奇病でわかれわかれになる恋人たち、『僕らが天王星に着くころ』と、『セーター』の中に広がる小宇宙。

年下の恋人を呑み込んでしまった人妻の外側と内側でかわさせる愛の交歓、ジュリア・スラヴィン『まる呑み』。一番エロチックな作品だった。

ジェームス・ソルター『最後の夜』は一転してリアルで凄惨な作品で、末期ガンの妻を安楽死前の最後の夜を過ごす夫婦とその席に呼ばれた女の物語。

一番手近なところで……イアン・フレイジャー『お母さん攻略法』。恋人はバービー、A.M.ホームズ『リアル・ドール』。愛?モーリーン・M・マクヒュー『獣』。

そして、一番お気に入りの美しい作品、突然予告もなく飛行船に乗って去ってしまった恋人を追っておんぼろ自動車で全米を旅する男の話、スコット・スナイダー『ブルー・ヨーデル』。

長編は変な作品が多いけど、この並びの中ではかなりノーマルな因縁話、ニコルソン・ベイカー『柿右衛門の器』。

そして最後は生殖が集団的な祭や呪いのようになってしまっているある孤島を描いたジュディ・バドニッツ『母たちの島』。

スコット・スナイダーはIIにも1編収録されていてそれもよかった。もっと読みたい。