村上春樹編訳『恋しくて - TEN SELECTED LOVE STORIES』

恋しくて - TEN SELECTED LOVE STORIES

村上春樹の編訳による10の愛に関する短篇集。あまり名前をきいたことのない作家たちの作品を村上春樹が選んで訳した。ひとつは村上春樹自信の作品だ。前半はストレートなラブストーリーで、こういう奇をてらわないシンプルな作品も味わいがあってたまにはいいなと思っているところへ、後半はひねった文章とストーリーの作品があらわれてくる。やっぱりぼくはひねった作品のほうが好きだ。長編小説みたいに離れ離れになってしまう恋人たちの人生の行く末を描いた、ローレン・グロフ『L・デパードとアリエット――愛の物語』。2013年のノーベル文学賞を撮ったアリス・マンローの『ジャック・ランダ・ホテル』。飛行船の上での同性カップルの悲劇を描いた『恋と水素』(ラブストーリーのアンソロジーに同性愛を扱った作品がひとつもないのはかえって不自然に感じられる時代なのだ)。アメリカ人とカナダ人の対比が興味深いリチャード・フォード『モントリオールの恋人』。どれも読み応えがあってすばらしかった。

村上春樹自身の『恋するザムザ』は、冒頭の着想はすばらしいけど、そこから先深みある物語に育て上げるのを失敗した感じ。ちょっと残念だった。