村上春樹『雑文集』
村上春樹がデビュー以来書いてきた「雑文」の中から本人自ら69編選んだ本。有名なところではエルサレム賞を受賞したときの『壁と卵』のスピーチの日本語原文が収められている。気楽なくだけた文章もあるが、自らの創作活動を考察する気合いの入った文章もある。くだけている方でいうと、『夜のくもざる』のために書いたけど結局収録しなかったという2編のくだけっぷりが甚だしくて驚く。でも、確かにこれも村上春樹なのだ。
あと、巻末の安西水丸と和田誠の対談で、初期の村上春樹の小説でよく使われたワタナベトオルという名前が、安西水丸の本名からとられたということを知った。なるほど。
地震などがあって、文章を読んでもなかなかあたまに入らない状態が続いてきたのだけど、さすが村上春樹の文体はまったく拒否反応なくすらすら読みこなすことができる。かなり救われた。
今この地震後の状況についての村上春樹の言葉がたまらなくききたい。彼ならこの何ともいえない閉塞感に風穴をあける言葉を届けてくれる気がする。あるいは「雑文」という形では表現できず、虚構という形式を必要とするのかもしれないが。