柞刈湯葉『横浜駅SF』
横浜駅は「完成しない」のではなく「絶え間ない生成と分解を続ける定常状態こそが横浜駅の完成形であり、つまり横浜駅はひとつの生命体である」と何度言ったら
— 柞刈湯葉(いすかり・ゆば) (@yubais) January 4, 2015
元はといえばすべてはこのツイートを皮切りに連ツイされた物語の断片からすべてははじまった(ぼくもちゃんと2日あとに見つけていた)。やがてネットで連載され、賞をとり、書籍化されたのがこの本だ。ぼくはネットの連載(今でも読める)はスルーしてしまったが、書籍化の際に大幅に加筆されているそうだ。
およそ1000年先の未来の日本。そこでは生物のように自律的に増殖する能力をもった横浜駅が本州をほぼ覆い尽くしていた。「エキナカ」と呼ばれるその内部では人々は「Suika」方式の端末を体内に埋めこまれている。Suikaをもたないものは原則として中に入ることはできず、エキナカで何か問題を起こした場合もSuikaを無効にされ外に追放されてしまう。ただし18キップというものがあればSuikaをもたないものでも5日間だけ中に入ることができる。横浜駅の外、今の三浦半島の突端あたりで生まれ育った三島ヒロトがこの18キップを手に入れ、エキナカでの冒険が本編のメインのストーリーライン。
久しぶりに貪るように読んだ本だった。Kindleなので貪れないけど。著者にそういう意図があるかどうかわからないけど横浜駅は戦後日本の繁栄と平和の象徴としても読める。それが今終わろうとしている。果たして人間たちが横浜駅から自立することがほんとうにいいことなのかどうか。それは本書の中では結論は出ていない。
なお、固有名詞が、連載から微妙に変更されている。JR北海道→JR北日本、JR九州→JR福岡、Suica→Suikaなどとなっているのはやはりリアルな名称を使うことに差し障りがあったのだろうか。
ネット連載の内容で収録できなかった「増発」の部分は別途書籍化するという話があり、またちょうど今このタイミングであらたに群馬編の連載がはじまっている。楽しみだ。