安部公房『密会』

密会 (新潮文庫)

安部公房再読シリーズの第3弾は『密会』。最初に読んだ『壁』、次の『燃えつきた地図』と比べると物語の完成度ははるかに上回っている。安部公房の最高傑作のひとつといっても過言でないだろう。

ある夏の朝、身に覚えのない救急車がやってきて、妻が連れ去られてしまう。彼女の行方を追う男。探索の舞台は盗聴マイクの網が張り巡らされた巨大な迷宮のような病院だ。一瞬カフカの『城』のような無機的な官僚組織かと思うが、病院の中を支配しているのは欲望、それも決して満たされることのない欲望だ。おそらく、妻を探すという行為の中にある嫉妬混じりの欲望が病院のポリシーとたまたま合致したため、男は病院に受け入れられる。骨が溶ける奇病を患った少女、二本のペニスを持つ馬人間、不感症で残虐な女秘書、彼らのさまざまな欲望に男は翻弄される。

探索の果てに男はもはや妻を探す動機も欲望も失っていることに気がつく。と同時に彼は病院に見捨てられ、迷宮の中で朽ち果てる……。

迷子になるのが楽しくて散歩しているぼくとしては、なんといっても迷宮の描写がたまらない。通路は錯綜し、階は入り乱れ、病院と外部の街との境界も定かではない。トイレの中には天井に続くハシゴと地下室への階段が隠されている。この世界を思う存分歩き回りたくなった、ただし念のためGPSつきで。

お勧め★