安部公房『カンガルー・ノート』

安部公房が生前完成させた最後の長編小説。 脛にカイワレ大根が生える奇病にかかった男が自走式のベッドと共に病院を追い出され奇妙な冒険を繰り広げる。病院のシーンが多いし、地下の坑道、三途の川など死を想起させる要素はメタファーではなくあからさまに散りばめられている。一貫した物語というより...

安部公房『飛ぶ男』

安部公房の死後フロッピー・ディスクから発見された未完の作品。当初公開されたのは夫人による編集が入った版立ったが、今回はオリジナルの版が収録されている。そのオリジナルさは徹底していて、末尾は文章として成立してない断片や走り書きもそのまま収録されている。 深夜、教師をしている保根のもと...

ケムリ研究所『砂の女』

『砂の女』の原作を読んだのははるか昔で、ストーリーは骨格だけ覚えていた。タイトルに引きずられて女が主体的に男を監禁するような印象を持ち続けていたが、実のところ女もまた被害者で、砂を中心としたシステムが主体で、そのシステムの維持のための労働力として男が必要とされたのだった。 砂といえ...

アロッタファジャイナ『安部公房の冒険』

安部公房という名前をきいて、その作品世界からの引用をちりばめたシュールな作品をちょっと期待していたが、彼の後半生にリアルに焦点を当てた作品だった。おそらくは2013年に出版された俳優山口果林さんの回想記がベースになっているのではないだろうか。彼女をモデルにしたとおぼしきあかねとい...

『友達』

作:安部公房、演出:岡田利規/シアタートラム/指定席4500円/2008-11-22 19:00/★★ 出演:小林十市、麿赤兒、若松武史、木野花、今井朋彦、剱持たまき、加藤啓、ともさと衣、柄本時生、呉キリコ、塩田倫、泉陽二、麻生絵里子、有山尚宏 夜。一人暮らしの男がノックの音に応えると...

安部公房『密会』

安部公房再読シリーズの第3弾は『密会』。最初に読んだ『壁』、次の『燃えつきた地図』と比べると物語の完成度ははるかに上回っている。安部公房の最高傑作のひとつといっても過言でないだろう。 ある夏の朝、身に覚えのない救急車がやってきて、妻が連れ去られてしまう。彼女の行方を追う男。探索の舞...

安部公房『燃えつきた地図』

安部公房再読シリーズ第2弾。 一応探偵小説の形式をとっていて、興信所に勤める主人公の「ぼく」が依頼を受け、失踪した男を探すというストーリー。探偵小説の場合は、謎の量は終盤になるまで増減をくりかえしながら、最後に一気に0になるというトレンドをたどるけど、この小説では、起きる出来事が謎...

安部公房『壁』

高校生の時以来の再読。当然のようにすっかり内容を忘れていた。 あの当時はまだカフカも読んだことなくて、はじめた触れたいわゆる不条理文学だったので、この作品というよりこのジャンルへの驚きが大きく、この作品の特長をとらえきれなかったと思う。今回読んでみて、メタフォリカルなエピソードと、...