青年団+大阪大学ロボット演劇プロジェクト アンドロイド版『変身』
フランス語による上演で日本語字幕付き。
アンドロイド版『三人姉妹』がそうだったように、この舞台も原作を題材としつつもまったく別のテーマの作品に仕上がっている。舞台は2040年の南仏の小都市。社会は長く続く意味のない戦争のため疲弊している。気がかりな夢から覚めたグレゴワール・ザムザ(フランス語名になっている)は巨大な毒虫ではなくアンドロイドになっていたのだ。話すことはできるが、歩いたり食べたりすることはできない。
原作でも一応声を発することはできたものの現実的に家族との意思の疎通は不可能になっていたが、この作品ではふつうに会話をしていてむしろ愛情は深まったように思われる。だから原作とは対極的な4人家族のホームドラマになっていて、その背景にしっかり社会の存在を感じる。家族構成は閉鎖間近の工場で働く労働者階級の父親、難民向けのボランティア活動にいそしむ母親、クレープ屋でバイトする妹。
アンドロイド演劇全体に通底するテーマである、アンドロイドの存在を通じて人間とは何かを問う問題提起はこの作品でいっそう深まっている。これまでの問はもっぱら倫理的な問だったが、この作品では植物状態の人間との対比や脳をめぐる議論によって、哲学的な問がなされていた。
だんだん自分が人間らしい感情をもてなくなってきたという不安を感じるグレゴワール。もちろんその不安こそがとても人間的なわけだ。平田戯曲の定型だが、ここに一編の詩が登場する。今回は宮沢賢治の『月天子』という詩だ。そこから引き続きのとても感動的な終幕だった。
原作:フランツ・カフカ、作・演出:平田オリザ(翻訳:マチュー・カペル、小柏裕俊)/神奈川芸術劇場大スタジオ/自由席4000円/2014-10-11 15:00/★★★★
出演:Irène Jacob、Jérôme Kircher、Laetitia Spigarelli、Thierry Vu Huu、リプリーS1(アンドロイド、開発:石黒浩、声:Thierry Vu Huu)