青年団『革命日記』

青年団『革命日記』

作・演出:平田オリザ/こまばアゴラ劇場/自由席3500円/2010-05-02 19:00/★★★

出演:能島瑞穂、福士史麻、河村竜也、小林亮子、長野海、佐藤誠、宇田川千珠子、海津忠、木引優子、近藤強、齋藤晴香、佐山和泉、鄭亜美、中村真生、畑中友仁

革命を目標に掲げる武闘左翼集団のアジトが舞台。メンバーの夫婦の自宅を偽装している。2日後に迫ったテロの計画変更について話すためにメンバーが集まってくる。当初、空港襲撃だけだったのに、他組織との連携のために大使館襲撃にも人員をさくことになり、メンバーの不満と疑問が高まっている……。入れ替わり立ち替わりやってくるメンバーとそれ以外の一般の人々。一般人が訪れるときはチャイムは1回だけだが、メンバーは3回続けてならすのが、いいアクセントになっている。

柄谷行人風にいうと「資本=ネーション=ステート」という共同体を武力で打倒するという理念のもとに集まった個人だったはずの彼らだが、今や彼ら自身が共同体を形成して、それを存続させるためだけに活動している。リーダーが声高に自分たちの存在やテロ計画の意義を語ってもだれも耳を傾けない。みんなそんなことは絵空事で不可能なことは承知しているのだ。その共同体にくさびを打ち込むのは、さらに原初的な共同体、夫婦やカップルの関係だ。一組の夫婦は組織のために自分たちの生活を犠牲にし、子供と離れて暮らし、その関係は危機に瀕している。そして、もう一組のカップルの女性は、公然と組織の論理に反抗するが、むしろ銃後の妻の役割に徹しようとする。すると、そこにある封建制が先ほどの夫婦の妻の方から指摘されるが、逆に彼らの夫婦関係の危うさを突っ込み返される。

この場面の迫力はすごくて、カップルの女性の方を演じた鄭亜美がこちらに背中を向けているのだけど、そのむき出しの肩の部分が真っ赤に染まっていくのが、ほんとうに生々しかった。

ばらばらに分解してしまいそうな組織だが、外敵(というより今回の場合内部の造反者だが)に対しては一致団結する。というか、外敵の存在が組織を維持するために不可欠なのだ。

平田オリザは一貫して日本における共同体の問題をとりあげてきたが、今回は過激派を舞台にして、家族やカップルという最も基本的な共同体を排除しなくてはならない共同体のひずみのようなものを、描き出せたと思う。平田オリザ作品のいくつかを並べて日本共同体図鑑を作ったとして、かなり目をひく逸品だった。