『三人姉妹』
作:チェーホフ、演出:岩松了/シアターコクーン/S席7000円/2001-10-20 19:00?/★★★★
出演:田口浩正、広岡由里子、杉嶋美智子、室井滋、緒川たまき、朝比奈尚行、國村隼、手塚とおる、清田正浩、吉見一豊、渋谷拓生、松崎剛也、岩松了、神津はづき
席は中二階の舞台に向って左側だった。前に人がいないのはよかったが、舞台の左隅が全く見えなかった。そこの人が来て話すシーンがいくつかあったので、それだけは残念だ。チェーホフの作品を生で観るのは「かもめ」に続いて2作目。テレビで観た「ワーニャ伯父さん」をいれると3作目だ。前の2作はもともと戯曲を読んでしまっていたが、今度は読んでない。それがよかったのかどうかわからないが、今回はストレートに感動できた。三人姉妹(長女オーリガ=杉嶋美智子、次女マーシャ=室井滋、三女イリーナ=緒川たまき)とその周囲の人々の数年間を描いた物語。次女役が室井滋なのはやはり『やっぱり猫が好き』を意識してのことだろうか。他のチェーホフ作品同様、結婚している登場人物はみんな不幸、さもなくば失望を感じている。この作品にも、歳をとるまで独身を通した男性(たいていは医者、チェーホフ自身の投影かもしれない)が出てくるが、こちらはこちらで寂しさや諦めを抱えている。モスクワに帰りたくてもさまざまな理由で帰れないというのもチェーホフ作品ではおなじみの状況だが、この作品も同じ。田舎がいやな気持ちはよくわかる。あと、長男アンドレイの妻ナターシャの救いようのない下劣さや、マーシャの夫クルイギンの、善人にはちがいないのだけど、うざったく感じてしまうところなどが、とてもよく描けていた。今回、演出が少し変わっていて、ジェット機の轟音が響くと、三姉妹がシェルターのようなところに隠れてしまうシーンがあったり、冒頭に戯曲にはない謎のシーン(薄暗がりの中、黒いフードをかぶった人々が集まってくる)などがあったりした。これは、ひょっとすると、アメリカの同時テロを意識したものだろうか。劇中ヴェルシーニン中佐が、いまわれわれが感じている苦しみは子孫の将来の幸福のためだ、という台詞があるのだが、この演出はその台詞に対する一つの回答かもしれない。