サンプル『自慢の息子』
作・演出:松井周/アトリエヘリコプター/自由席3000円/2010-09-20 19:00/★★
出演:羽場睦子、古舘寛治、古屋隆太、奥田洋平、野津あおい、兵藤公美
母親が一人息子正(ただし)の自慢話をはじめる。ひょっとするとキリストよりもすごいといわれているとかいう。今はどこかに彼を王といただく独立国をつくっているらしい。母親とともにその国に向かうのは、コールセンターの仕事をくびになって正に移住を勧められた若い女性咲子とその兄。怪しげなガイドに連れられて彼らはその国にたどりつく。といっても、住人は彼らだけだし、むしろそこはアパートの一室のように見えて、隣人はパンクでシングルマザー(?)の女性だったりする。
幼児期の全能感から抜け出せず国ごっこをする男が、ある意味自分の姿をみているようで痛々しくてチクチクした。また咲子とその兄も幼児期の親密さを純粋な愛情と勘違いし続けることで、現実から逃避し、自分たちの安全な殻の中に閉じこもろうとしている。隣の女性の子供も彼女自身の幼児性が形になっただけでほんとうはいないんじゃないかと思わせるところもある。この作品はそういう幼児性の問題がテーマなのかなと思ったが、そこはどうやら主たるテーマではないらしい。
ひとつには母と息子の関係。息子をスポイルし続ける母。それに表面的には反発しながらも、根本的に依存している息子。そのあたりが最後の、ウェディングドレスをきた母親のドレスの下から半裸の息子が這い出そうとするシーンに象徴的に表現されていた(ということを終演後のアフタートークで作者自身から教えてもらってはじめて理解できたのだが)。
そして、もうひとつが国というか正確にはネイションを形成するのに必要なもの。それは国民が共有できる物語だ。この世界では共有できる物語なんてどこにもなくて、みんな自分だけの物語をそれぞれの場所に刻みつけようとしているだけだが、結局は彼ら自身が建国の物語になってしまったという落ち。ぼくらはある国の建国神話を目撃したのだ。
といういくつかのテーマに偶然性や作者の無意識がからんでできあがったなんとも不可思議な世界。毎度、笑いながら、あっけにとられてしまう。