遊園地再生事業団『おはようと、その他の伝言』

作・演出:宮沢章夫/世田谷パブリックシアター/指定席4000円/1999-05-15 19:00?/★★

出演:笠木泉、朴本早紀子、宋ひさこ、佐伯新、加地竜也、小沢直樹、佐藤沙恵、鈴木雅子、嶋田健太、田澤好一、平田裕司、足立彩、岡本奈緒、倉沢愛、吉田菜々、しりあがり寿

2010-10-27記:もともと観劇数ヶ月後に書いた薄い内容のコメントが書いてあったが、戯曲を見つけて読みなおしたので、あらためて感想を書いてみる。

舞台は「高円寺駅ホーム」という名前の町。中央にキヨスクがあって見るからに駅のホームなんだけど、同時にそれは一面の荒野の中にある町でもある。登場人物は、前作『ゴー・ゴー・ガーリー』の三姉妹=サエ、リカ、ユミ、駅員=ハセガワ、キリヤマ、無為にたむろする近所の若者たち=モモコ、ウスイ、ハジメ、ミワ、自殺志願の少女と自転車に乗ったその兄=ユウコ、カトウ、不動産屋社員と家を探している女=ヨリコ、トモミ、キヨスクに新聞を届けに来た男=トオヤマ、ギターケースをもった男=タドコロ、そして自分自身が入りそうなくらい大きな袋を引きずって歩く謎の少女。

登場人物の何組かは、誰かまたは何かを待っている。だが待ち人は現われず、捜し物はみつからず、電車も隣駅の人身事故でとまったままという『ゴドーを待ちながら』的な展開。「理由より方法」。その言葉に導かれるように、明確な理由もなく自殺という方法をとろうとする人々(電車はこないので未遂だが)。会話と意図はどこまでもすれちがい続ける。この町ではただ「おはよう」だけが意味をもつ言葉なのだ。

リアルタイムにみたときには正直ピンとこなかったのだけど、今あらためて戯曲を読み直してみると、宮沢章夫さんのそれ以降の作品に通底するようなエッセンスがつまった作品だと思う。循環する時間、屈折するコミュニケーション、そして物語の不在。三姉妹を筆頭に登場人物それぞれのローカルな物語はあるが、登場人物すべてに関係するようなグローバルな物語はどこにもない。そもそも事件らしい事件は起きない。舞台の上に流れているのは物語でなく気分だ。物語的必然性なしに、ただ気分だけで、人々は死を選ぼうとする。

2010年座・高円寺で上演された『ジャパニーズ・スリーピング/世界でいちばん眠い場所』の原点となった作品だと思う。現実の高円寺の町に劇場ができ、そこで上演される作品のテーマが、(死の似姿としての)眠りなのは決して偶然ではない。