『終点 まさゆめ』

終点 まさゆめ

今年初観劇。

安楽な老後生活が送れるという惑星《まさゆめ》に宇宙船で向かう船長一人と乗客7人。ところが事故で燃料が流失し1人を放出しなければいけなくなり、まさゆめの生活でで一番役に立たない人を民主的に話し合いと投票で決めることになる。

その後も宇宙海賊の襲撃、疫病が蔓延する宇宙船からの脱出で、あわせて3回、この話し合いのセッションが行われる。

最初の自己紹介とこの話し合いは実は台本がなく毎回アドリブだとアフタートークで教えてもらった。しかも稽古を含めて毎回違うことを言わなくてはいけないという縛りがついている。

キャストのうち6名は65歳以上という条件でオーディションで選ばれたそうだ。もともとこの劇場ではさいたまゴールド・シアターという55歳以上の演劇をやっていてその流れのようだ。今回もそのゴールド・シアター出身の俳優が2人参加していた。今回アドリブシーンが多いので各演者の個性や生きざまが垣間見える。わずかだが一種リアリティショー的な要素が浮かび上がってしまう。そのなかで石川佳代さんは才気煥発なプロ意識を感じた。時事ネタを混ぜ込んで笑いをとっていてすばらしい。

もともとは2010年に上演された『聖地』を再演しようというプランがコロナで頓挫し、今回新たにミニマルに再構成したということらしい。未見なので確かではないが、『聖地』にあったはずの安楽死、姥捨に対する批評性は希薄になり、SFエンターテイメントとして構成されている。ラストのアイディア的は昔読んだスタージョンか誰かの短編に似たようなのがあった気がする。松井周さんの関心は、作品そのものを世に問いかけることから、より広い範囲の参加者と作品を作り上げるプロセスの方に関心が移ってきているようだ。でもまあ『聖地』も見てみたい。

作・演出:松井周、演出協力:菅原直樹/彩の国さいたま芸術劇場小ホール/自由席3500円/2025-01-12 14:00/★★★

出演:久保井研、菅原直樹、(声)申瑞季、篠崎大悟、荒木知佳、石川佳代、井上洋子、今栄敬子、小川隆正、竹居正武、山田浩司