ミクニヤナイハラプロジェクト『船を待つ』
演劇の世界では、待つ対象はゴドーのはずだが、ゴドーはもう歩くAIアシスタントとしてここにいる。戦火から逃れ移民としてこの国にやってきた美容外科医が待っているのは船だ。 一日は無為に過ぎていき船は来ない。そこに上の神社から貧しい現地民エイが流されてくる。彼らは最初反目するがエイの兄が自死したエピソードをきっかけに和睦する。船は来ない。唐突にゴドーも去っていく。
ミクニヤナイハラプロジェクトは言葉の密度が高くてセリフが聞き取れないこともあるがそのスピードからうまれる高揚感が魅力だった。今回はうってかわってセリフはゆっくりで間がある。その間に入ってくるのが映像と音楽だ。独特な横長でフラットな舞台空間と相まって魅力的ではあったが、物語を補完してくれるものではなく、いつも以上に観客の想像力に委ねられているように感じた。
今回ダブルキャストで、関西で活躍する俳優たちのバージョンとこれまでのミクニヤナイハラ作品にでてきた俳優たち中心のバージョンがある。ぼくがみたのはたまたま後者だった。笠木泉さんは最近は作か演出でみてきたので久しぶりという感じはしなかったのだが、舞台でみたのは2018年以来だった。やはり舞台で見ると映える。「ヘイ、ゴドー!」という声がいい。鈴木将一朗さんは2014年のミクニヤナイハラ作品以来だった。そして、どこかでみた人だなと思ったら渡辺梓さんだった。テレビでなく舞台でみたのははじめてだ。
さて、船とはなんのメタファーなのだろう?それを死と考えることはできそうだ。彼らがいる場所は煉獄みたいだし、冥土への渡し船を待っているのか。あるいは、船には今はもうないものやいない人の記憶が乗っているのかもしれない。美容外科医とエイの語りの中から記憶はよみがえるので、ある意味彼らはお互いが自分にとっての船であるともいえる。ゴドーは去って彼らの記憶の中に残ることで最大のパフォーマンスを発揮しようと思ったのかもしれない。
作・演出:矢内原美邦/吉祥寺シアター/自由席4000円/2024-03-23 19:30/★★★
出演:渡辺梓、鈴木将一朗、笠木泉