『常陸坊海尊』
常陸坊海尊。初めて聞く名前だったが、源義経の従者の一人とのこと。途中で逃げ出して生き延びてその後不老不死の身となり何百年間も源平や義経の物語を見てきたように語ったという説話が残っている。
それで歴史物だと思っていたが、昭和の戦中から戦後にかけてが舞台だった。疎開で東京から東北地方の寒村にやってきた少年啓太と豊は山の中で迷い、美しい少女雪乃とその祖母でいたこのおばばと出会う。おばばは若い頃山中をさまよう海尊と出会い妻となり子をもうけたといい、少年たちは海尊のミイラを見せられる。啓太はおばばに気に入られ雪乃の婿候補になる。戦争が終わり、天涯孤独になった啓太は、おばばたちとともに姿を消す。
おばばは海尊の血筋をのこそうとしているんだけど、実は海尊は生身の人間ではなくロールであり、ミームのように感染、拡散して郁ものだということが、徐々に明らかになる。過去の罪を悔い、それを伝えることで贖罪を果たす男というロール。むしろ自分のものではない罪を背負うことで救われる姿が描かれている気がした。
海尊の存在のように物語もふわっとしているのだが、その各シーンに迫真性を与えているのは演出の力のような気がする。俳優陣では白石加代子さんの存在感はいうまでもないが、舞台では初めての中村ゆりさんがよかった。
作:秋元松代、演出:長塚圭史/神奈川芸術劇場ホール/S席7500円/2019-12-21 14:00/★★★
出演:白石加代子、中村ゆり、平埜生成、尾上寛之、長谷川朝晴、高木稟、大石継太、明星真由美、弘中麻紀、藤田秀世、金井良信、佐藤真弓、佐藤誠、柴一平、浜田純平、深澤嵐、大森博史、平腹慎太郎、真奈胡敬二、山崎雄大、白石昴太郎、室町匠利、木村海翔、藤戸野絵