チェルフィッチュ『部屋に流れる時間の旅』
冒頭目をあけてくださいというまで目を閉じてくださいと言われる。それでゆっくりと流れるアンビエントな時間に身を委ね、細かな音に耳を澄ます準備ができた。
震災の翌年2012年の物語だ。いわゆる災害ユートピアというやつで、妻は未来に希望をいだくなるようになり考え方や性格が一変して朗らかになる。そしてその状態を保ったまま震災から4日後に持病で急死してしまう。1年後の今も夫のもとに幽霊としてあらわれ、震災当時のことをありありと語る。
センチメンタルなシチュエーションだ。しかし、夫は、妻の「ねえ覚えている?」という問いかけをほぼ無視する。震災で時がとまったままの妻とはことなり夫には苛酷に(あるいは甘やかに)時は流れているのだ。ユートピアはいつまでも続かない(ユートピアが続いていたとしてもナショナリズムを巻き込んだやっかいなものになったであろうことが妻の言葉で暗示される)。やがて、断裂は震災の前よりひどくなる。夫は新しい恋人を部屋に呼ぶ。彼女の存在によって、自分を過去から(つまり妻の幽霊から)引き離してもらおうとしているのだ。ゆっくりと近づいていこうとする二人の関係性が魅力的だ。
センチメンタリズムと混じり合った苦みが口の中に広がる、心を揺さぶられる舞台だった。
作・演出:岡田利規/シアタートラム/自由席3500円/2017-06-24 18:00/★★★
出演:青柳いづみ、安藤真理、吉田庸