サンプル『通過』

作、演出:松井周/三鷹市芸術文化センター星のホール/指定席3000円/2009-05-23 19:00/★★★★

出演:辻美奈子、古舘寛治、 古屋隆太、羽場睦子、吉田 亮、野津あおい、坂口辰平、奥田洋平、山村崇子

松井周の処女作の再演ということだが、初見。

ゴミが入ったポリ袋が舞台とその周囲を取り囲むように設置された客席に積み上げられている。今回の公演のために用意したもので衛生上問題がないということが、強調されていた。

ある家族の物語。事故で性的能力を失った夫と、同級生と不倫関係の妻、そして痴呆気味の夫の母(一度も舞台には登場しない)の三人家族。そこに職を失った妻の兄がやってくる。彼は、母に取り入り、若い男女を引き入れて、母の介護を引き受けるとともに、周囲の雑木林に投げ込まれるゴミをリサイクルする事業を立ち上げようとする。

一種ユートピア的な拡大家族のようになっていき、それだけをとらえるといい話で終わってしまうんだが、自意識をもった人間たち—-中心となる夫婦はその中に入り込むことができず、疎外され続ける。しか二人はやすらぎをお互いの中に求めることもできず、自分の殻の中に閉じこもることしかできない。彼らの側からみるとユートピアは完全な悪夢になってしまうのだ。

さらに、そこに異物感のある謎として投げ込まれるのが、妻が所属するコーラスサークルの主宰者がもらす、この家でおきる出来事はすべてインターネットで公開されているという、告白だ。そういって、彼はURLまで残していくんだけど、夫も妻も興味をもとうとしない。もはや、外部の世界にすら逃げ場がないことを示す、衝撃的なエピソードだった。

リアリティと神話的な物語のパワーを兼ね備えた傑作だ。