サンプル『家族の肖像』
作・演出:松井周/アトリエヘリコプター/自由席2500円/2008-08-23 19:00/★★★
出演:羽場睦子、古舘寛治、成田亜佑美、岡部たかし、西田摩耶、古屋隆太、野津あおい、村上聡一、辻美奈子、木引優子、中川鳶、江原大介
芝居が始まる前に会場に度肝を抜かれた。舞台の周りの2メートルくらいの高さのところに通路があってそこがそのまま座席になっている。舞台を見下ろす形だ。鉄パイプが頭の高さのところにあって(ぼくは当然のように頭をぶつけた)、元は何のための施設だったのだろう。
現代日本の縮図のような、元教師現在パートの母親と暮らすひきこもりの40男、セックスレスの夫婦、スーパーで働く人々、そこで万引きをする娘、三角関係の男女、恋人とわかれたばかりのフランス語教師の女性、メード姿の謎の少女。入れ替わり立ち替わりあらわれる彼らを、目を細めるとモナリザの顔が見えるだまし絵みたいに、ひとつの家族としてなぞらえてみようという、ヴォネガットの夢みた拡大家族のような試みだ。
一見ばらばらのようだがどこかで彼らは互いに関係し合っている。その輪の一番外側にいるかに見えるひきこもりの男が、実は象徴的に彼らがひとつの家族であることを担保しているのだ。ラスト、自ら死を選ぼうとする彼が拾う誤配された手紙。そのおかしみになぜかほのかな希望を感じてしまった。
ひとつひとつの細部に愛しさが感じられるとてもいい芝居だったと思う。終演後のちょっと不器用なパフォーマンストーク、公開稽古を含めてとても楽しかった。