青年団『火宅か修羅か』
作・演出:平田オリザ/こまばアゴラ劇場/自由席3500円/2008-01-04 19:30/★★
出演:志賀廣太郎、山村崇子、能島瑞穂、堀夏子、荻野友里、古舘寛治、古屋隆太、大竹直、鈴木智香子、井上三奈子、しんそげ、高橋緑、兵藤公美、島田曜蔵、山本雅幸、村田牧子
海辺の旅館のロビーが舞台。いくつかの人間関係が並行して描かれるが、主軸となるのは、妻の死後家を出てその旅館で生活する小説家、再婚相手の女性、小説家の三人の娘だ。もう一組、学生時代の水難事故を引きずる元ボート部の男女の一団が舞台をにぎやかす。
タイトルの『火宅か修羅か』だが、ぼくは「火宅」の意味を勘違いしていた。文字通り、問題が発生して炎上中の家庭という意味かと思っていたが、広辞苑によると単に「現世。娑婆。」ということらしい。もうひとつの「修羅」は、作中で登場人物が説明してくれるように、地底や海底から天上の神々に戦いを挑む悪神転じて人の心の底にたぎるマグマのことで、この作品に限らず平田オリザ作品は表面上の静けさの裏で、この修羅を描こうとしているといっていいような気がする。
今回、残念なことに、修羅をちゃんと見いだすことができなかった。勘違いした「火宅」の意味にミスリードされたか、あるいは題材とぼくとの相性が悪かった、ということになるのかもしれないが、そんなこと別にいいじゃんと思えてしまって、真に迫る瞬間をつかみそこねてしまった。
それでも、小説家一家の三女とボート部で死んだ生徒と同じボートに乗っていた小林が言葉を交わすシーンはよかった。互いに余計な部外者か好奇心の対象に過ぎなかったのに、突然共感がうまれる。ぼくは争いには心を動かされず、和解にひかれてしまうということなのかもしれない。