梅雨とラムと

関東も梅雨入りした。

鬱陶しい雨の中、景気づけに、以前から飲みたかったラム酒というものを買ってみた。カリブ海の海賊御用達の、さとうきびから造った蒸留酒だ。海賊ではないのでストレートやロックで飲む侠気はなく、スーパーで割り代のコーラやらオレンジジュースやらを買って外に出たとき、悲劇は起こった。

カサ、カバン、スーパーの袋、ラムの入った袋。荷物が多すぎたのだ。指からそのうち一つがすべって地面にたたきつけられた。ガッシャーン。まるで車にひかれた動物のように、褐色の液体が血のようにどくどくと流れ出している。そう、落ちたのはラム酒の瓶だった。臭いがたまらない。泥酔した中年サラリーマンを1ダース並べたような臭いがあたりにまきちらされている。

悪臭発生源かつ危険物と化した袋の中の物体をそのままうち捨てて帰りたかったが、かすかに残った公徳心が袋を拾い上げた。家までの道すがら、足跡を残すように、袋の中から少しずつ残りのアルコールが地面に落ちていった。

落ちるだけ落ちても臭いはそのままで、ぼくはそれを部屋の中に入れる気にはならなかった。ゴミ置き場(カギ付き)に直行しようとカギを探したが、どこにも見あたらない。オフィスに忘れてきたのだった。ああああと雨の中叫ぶ……。