グレッグ・イーガン(山岸真訳)『ゼンデギ』ebook

ゼンデギ (ハヤカワ文庫SF)

読み始めて全然SFじゃないのであれっと思う。第1部はほぼ現代といっていいような数年先の(といっても設定は2012年なのでもう過ぎてしまったが)のイラン市民革命を舞台に、現地で取材するオーストラリア人マーティンと、アメリカに亡命して遠くからそれを見守る若いイラン人女性研究者ナシムが交互に描かれる。ナシムの研究の最終目標は脳の機能をソフトウェアで再現することで、それが第2部で重要な役割を果たす。

第2部は15年とんで2027年。マーティンは現地の女性と結婚してそのままイランに残り、誕生日をむかえると6歳になる息子がいる。ナシムもイランに戻り、ヴァーチャルリアリティーのゲームプラットフォーム《ゼンデギ》の技術スタッフとして働いている。いろいろあって死期をさとったマーティンが息子の相談、指導役として自分の分身をゼンデギの中に作れないかとナシムに相談する……。SF要素はかなり入っているが、いつものイーガンのハードでぶっとんだものではなく、現代の技術と連続していて容易に想像可能なものだ。

マーティンが息子を思う気持ちがかなり描かれていてイーガンには珍しい人間ドラマになっているが、大きなテーマは他の作品と共通で、「倫理」だ。人間とは何か、そして人間がソフトウエアになっていく過程で何が許されて何が許されないかという線引きについて真摯に考えられた作品だ。

ゼンデギの中のシーンがかなり多いが、ゲームのリプレイを読んでいるみたいで、小説を読むのとは別の楽しみを感じた。

技術的な面でもドラマ部分の多さの点でも、イーガンで最も映画化しやすい作品ではないだろうか。マーティンつながりでぜひマーティン・フリーマン主演で映画化してもらいたい。ずっと彼を思い浮かべながら読んでいた。