チャールズ・ディケンズ(加賀山卓朗訳)『二都物語』

二都物語 (新潮文庫)

「あれは最良の時代であり、最悪の時代だった。叡智の時代にして、大愚の時代だった。新たな信頼の時代であり、不信の時代でもあった。光の季節であり、闇の季節だった。希望の春であり、絶望の冬だった。」という有名な一節で幕をあける物語。舞台はフランス革命の時代の二つの都市ロンドンとパリだ。

1775年。長らくバスティーユ監獄に幽閉されていた医師マネットが解放され成長した娘が住むイギリスに渡るところから物語ははじまる。その娘ルーシーに思いをよせるチャールズ・ダーネイとシドニー・カートン。奇しくも二人はうり二つだった。人生に希望を持てず自堕落な生活を続けるシドニーは身を引き、ルーシーはチャールズと結ばれる。幸福な生活が続くように見えたが、やがて対岸のフランスで起きた革命の炎にまきこまれてしまう。

裁判、幽閉など類似するシチュエーションを時をおいて繰り返し、その間の類似や対比を浮かび上がらせて、物語に奥行きをもたせる手法。細かく張りめぐらされた完璧な伏線の処理。まごうことなくディケンズの一大傑作だ。

以下ネタバレ。

シドニーの自己犠牲をあたかも再生であるかのように気高い行為として描いているけど、そこだけは頷けない。自己犠牲はやはり惨めなものだ。ぼくならラストはこうする。チャールズに入れ替わったシドニーは(ジュリエットが飲んだような)仮死になる毒を飲む。シドニーは埋葬されるが、夜、闇に乗じて、あらかじめうちあわせておいたジェリーが墓を掘り返し、シドニーを蘇生させる。なんか軽くなってしまうのは承知だが、自己犠牲なんかよりずっといいと思う。