F・ブラウン、S・ジャクソン他(中村融編)『街角の書店 18の奇妙な物語』
英語圏のまったく無名の作家からノーベル賞作家まで幅広く、いわゆる「奇妙な味」の作品ばかり18編を集めたアンソロジー。「奇妙な味」と自称する本は数多く出されてきたが、本書の味付けは格別だ。
まず、“bad taste”(悪趣味) と言ったほうがいいような独自の味わいの作品から挙げていこう。
- ジョン・アンソニー・ウェスト『肥満翼賛クラブ』 - 妻たちが夫を太らせて肥満コンテストに参加させる
- カート・クラーク『ナックルズ』 - もしサンタクロースの代わりに真逆のクリスマスに悪い子どもたちを襲う存在がいると信じられていたら……大人にとっては安上がりだが。
- チャド・オリヴァー『お隣の男の子』 - テレビ番組で8歳の男の子が人を殺したと告白する。現代アートのような視覚的な作品。
- ジョン・スタインベック『M街七番地の出来事』 - 文豪といわれる人がこんな軽いふざけたタッチの作品を書いたとは。
- フリッツ・ライバー『アダムズ氏の邪悪の園』 - 密室の庭園で特定の人間そっくりの花をつけることができる植物を育てる男。彼はその花をいたぶり自分の嗜虐的な趣味を満たす。それは現実の人間にも影響を及ぼす。
端正で美しい作品も含まれている。イーヴリン・ウォー『ディケンズを愛した男』がいい。妻に不貞を告白されて、距離と時間をおくため南米探検に加わる男。彼以外のメンバーはみな離脱あるいは死亡し、彼ひとり奇跡的にジャングルからの脱出に成功する。その先で彼が出会った人物は……。