海猫沢めろん『左巻キ式ラストリゾート』

左巻キ式ラストリゾート (星海社文庫)

文化系トークラジオLIFEでおなじみの海猫沢めろんさんの2004年に書かれた処女作が文庫化されたということで手に取ろうとしたが、ちょうど品薄になったタイミングで大きな本屋を何件かまわったがどこにも置いてない。結局昼休みにオフィスの近くの中規模書店でみつけて、久しぶりに何かを探して買うという体験をする。本書のコンテンツの一部として堪能させてもらった。

買う前から理解していたが、エロシーンが多い。ページにして確実に半分以上あるので、あまり電車の中で読む感じではなかった。巻末の東浩紀さんの解説によるともともとPC版のエロゲのスピンオフとして出版されたものなのだそうだ。美少女ばかり(その美少女のひとりが海猫沢めろんを名乗っている)の隔絶した学園で、記憶を失った主人公が目をさます。学園では連続レイプ事件が発生していて、主人公はその犯人を突きとめるため、捜査をすることになるというストーリー。メタフィクショナルな趣向がこらされている。

ラスト。主人公は自分の部屋に帰る。それまでエロシーンもそうじゃないシーンもクリシェやお定まりの描写が多かったのだけど、ここにきて著者の「肉声」がきけた気がして、なんだかじんときてしまった。

誰もが誰かを救うことなんか出来ない。僕は誰にも理解されない。

ここは無価値で、意味は剥奪されていて、繰り返すだけの世界。

いつでも闘うのは一人、ぼくは永遠に孤独で物語は始まらない。

希望も絶望もなく、ただずっと続くだけの空っぽの世界。

どんなハッピーエンドもさらなる苦しみへのプロローグ。

それでも僕は進み続ける。

君と僕の何もない未来へ。

解説で東さんは「前向きなポエム」と書いていたけど、むしろ漂っているのは閉塞感だ。この閉塞感は個人的(であるがゆえに普遍的な)閉塞感であるとともに、解説に書かれているように、コンテンツ(想像力)の進化がとまりコミュニケーション(環境)が前面化するゼロ年代以降固有の閉塞感であるともとれる。世界が崩壊していくのはこの物語の中の単なるエピソードではなく、コンテンツの可能性が狭められていくという形で現実に起こっている出来事なのだ。そのどちらの閉塞感にも深く共感せざるを得ない。