村上春樹『女のいない男たち』
タイトルから、とうとう村上春樹が非モテを主人公にした小説書くのかと思ったがちがった。基本モテだが、女性にさられてしまった男たちの物語だった。まず、巻頭に村上春樹にかつてない「まえがき」がついていて、この短編集の成立過程を「業務報告」的にさらりと書いてあって、これまでと違う感じを受けるが、中身はいたってハルキらしいいつものテイストの短編が並ぶ。ただ、ちょっと彩りがモノトーンというか渋みを感じるのは、今回のテーマかあるいは著者の年齢によるものだろうか。
村上春樹の描く女性は主体性や自らの意志をもつ人間というより、男たちにとっての巫女やミューズの役割を果たす受動的な存在だが、今回それが際立っていたような気がする。理不尽な形で恩寵を失ってしまった男たちの物語だった。
いつものテイストと書いたが、最後の表題作『女のいない男たち』だけはちがった。小説のように筋はどこにも転がらず、想像と比喩だけで転がしてゆく現代詩のような作品だった。いや、これはもう少ししぼって詩の形で発表した方がよかったんじゃないか。