グレッグ・イーガン(山岸真訳)『白熱光』
奇数章と偶数章で異なった人々による異なった世界の物語が語られる。
「百万年後の未来, 銀河系は二つの世界にわかれていた。融合世界とよばれる、巨大な相互協力的メタ文明と、銀河中央部を静かに占有する孤立世界。孤立世界は融合世界が彼らの領域に侵入することを長らく拒んできたが、旅人がショートカットのために非暗号化データとして通過するのは黙認してきた。ラケシュはラールという旅人と出会う。彼女は、通過の途中孤立世界に目覚めさせられDNAの痕跡でいっぱいのメテオを見せられたという。ラケシュは彼女のチャレンジを受け、メテオがやってきた孤立世界の領域奥深く地図にない世界を見つけようとする。」
というのが奇数章。偶数章は
「ロイとザックはスプリンターの中に住んでいた。白熱光と呼ばれる光の海を漂う半透明の岩だらけの世界だ。緊密に組織化された社会の周縁で、彼らはスプリンターのほんとうの姿を解き明かす鍵をさがそうとする。実は、彼らの世界は危機に瀕していたのだ。その証拠が集まるにつれて、ロイ、ザック、そして日に日に増えていくリクルートされた集団は、彼らの運命を理解し、コントロールしようと必死の努力を試みる。」
この二つの物語にどういう関係があるのか、最後の最後までよくわからない。訳者後書きをみてちょっと読み返してようやくそのつながりがおぼろげながら見えてきた。
奇数章はどちらかというと説明のための補助的なもので、メインは偶数章のロイとザックの世界だ。白熱光のため星を含め外部がまったく見えない世界で、一歩一歩ニュートン力学や相対性理論などの理論を構築していく過程がおもしろい。最初はがんばってついていこうとしたが、図や数式なしで言葉だけで説明されるハードルを越えられず、途中からは理論の部分の意味は追わず字面だけたどった。それでも、六本足で半透明の異形の人たちと世界の姿を解明していく知的な喜びを共有できた。すばらしい。後付けでイーガンのサイトで初歩のところだけは確認しようと思っている。
ふだんは共同で地道な作業を行い日々の暮らしで満ち足りてまわりの世界の目を向けない(だけど危機にあたっては結束する)という彼らの姿が、なんとなく巷間語られる日本人の自己像をほうふつとさせた。
最後に物語の中の年代を整理しておく。ネタバレだ。
- 1億6000万年前〜1億2000万年前 母星が恒星に引き連れられて移動中、遭遇した惑星にブローブを送る
- 5000万年前 母星が中性子星の接近で破壊される。「方舟」を数台用意し中性子星についていこうとする
- ? ロイとザックの物語(「方舟」のうち一台の物語)
- ? 孤立世界の構築
- 奇数章における現代 ラケシュの物語。破壊された惑星のそばと、中性子星のそばで「方舟」を1台ずつみつける
「方舟」は合計3つ見つかった。伝説では6つあったらしい。残りがどうなったか知りたい。