マイクル・コーニイ(山岸真訳)『パラークシの記憶』

パラークシの記憶 (河出文庫)

書かれた時代も国も違うが直前に読んでいた『ドグラ・マグラ』とひとつ大きな共通点がある。どちらも記憶の遺伝が小説の中の大きな要素として登場するのだ。折も折、ちょうどこの2冊を読んでいるときに、ネズミの記憶が父から子へ遺伝するという研究成果が発表され、驚いた(さらなる研究が必要だと思うが)。

ハローサマー、グッドバイ』の続編。同じ惑星を舞台にした物語だ。ただし『ハローサマー、グッドバイ』の時代から数百年経過している。大きく違うのが、前作では地球の現代くらいの文明だったのが大きく後退して部族社会になっていること。もうひとつは祖先が経験したことを思い出す能力をほとんどの住民がもっていること。最初、物語に新規性をもたせるための恣意的な設定変更かと思ったが、実は前作をひっくるめた大きな枠組みが隠されていたのだった。

前作のドローヴとブラウンアイズ同様、この作品もハーディとチャーム二人のボーイミーツガールストーリーがひとつの軸になっているが、そこは出来レースで、メインは、ある殺人事件、そして前作の最後に明らかになった事実の再発見だ。前作を読んでいても読んでいなくてもどちらでも十分楽しめると思う。

もうひとつ。この時代、地球人が資源の採掘のために滞在していて、この作品も地球人に対して語りかける口調で書かれているんだけど、その意味が最後の最後に明らかになる。なんだかじんわりきた。