村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』
発売早々に読んだ人たちの感想は酷評に近いものが多かったが、ぼくはかなり楽しめた。前作『1Q84』より10倍以上好きな作品だ。
自称平凡で特徴がなく空虚な男多崎つくるは高校生のとき4人の同年代の仲間と一体感に満ちた友情を結ぶが、二十歳のとき、突然仲間から追放されてしまい、しばらくの間死にとりつかれた日々を送った。16年後、36歳(100-村上春樹の実年齢)になったつくるは一見平穏な日々を送るが、まだ心の奥底で過去を引きずっていた。つくるは年上の恋人に諭され、自らの過去に向き合うため旅に出る……。
つくるの境遇があまりに恵まれすぎていて、感情移入できないとか、たかだか友達に切られたくらいで死ぬことを考えるなんて脆弱すぎるとか、(iPodとかスマフォは出てくるけど)同時代の問題意識に欠け、私的領域へ退行しているとか、いろいろもっともらしい批判は思いつく。確かに、物語のスケールは短編集の中の一編にふさわしいくらいだし、新しい何かがあるわけでもない。でもそのぶん、ゆったりと村上春樹の語り口を楽しむことができたのだった。
★★★