『チェコSF短編小説集』(ヤロスラフ・オルシャJr編、平野清編訳)
20世紀初めから終わりまでのチェコのSF短編小説を集めた本。収録作は11篇。ロボットという呼称を生み出した巨匠チャペックの作品も含まれているが、そのほかは初めてきく名前だ。編集の都合だろうか、数ページ程度の掌編といったような作品も少なからずあるので、チェコのSFの概況を把握するにはちょっと物足りない。
個人的には読むに値する作品は3つ。奇しくもどれも1980年代後半に書かれた作品だ。
エヴァ・ハウゼロヴァー『わがアゴニーにて』—— クランと呼ばれる共産主義的なコミュニティーとコスモポリスという資本主義的な豊かな社会との対比が描かれる。相互監視で自由がないが、共依存の構造に巻き込まれており、人々はそこから抜け出す勇気を持てない。まさにこの作品が書かれた当時のチェコのメタファーだ。
パヴェル・コサチーク『クレー射撃にみたてた月飛行』 —— 人類の月面着陸とJFK暗殺をからめたポストモダンSF。語りのリズムが心地いい。
フランチシェク・ノヴォトニー『ブラッドベリの影』 —— タイトルにはブラッドベリとあり、火星が舞台の作品だが、中身はむしろレム『ソラリス』のモチーフを使っている。ハードウェアや地形に関する描写が緻密すぎて読み進めにくくはあるのだが、視覚的イメージが鮮烈で、そのまま映像化できそうな作品だ。
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