ユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』ebook

サピエンス全史 上下合本版 文明の構造と人類の幸福

現生人類すなわちホモ・サピエンスの誕生から現代までの歴史の流れを3つのターニングポイントを軸に説明している。その3つとは、認知革命、農業革命、そして科学革命だ。

サピエンス(本書に習って以下ホモ・サピエンスをこう呼ぶ)は7万年前から3万年前にかけて突如として認知的能力が向上し、新しい思考と意思疎通の方法を身につけたのだという。それがここでいう認知革命だ。その原因や実態は興味深いが、本書ではささいな遺伝子の突然変異という仮説が簡単に紹介されるくらいだ。もとより、それ以上知るすべは何もない。とにかくこの認知革命により、人々は事実だけでなく虚構を共有できるようになり、集団で活動できるサイズが飛躍的に大きくなったのだという。虚構というのは神話や宗教のようなものだけでなく、株式会社とか人権というようなものも含まれる。

そして、1万2千年前、それまで狩猟、採集の生活をしていたサピエンスは畑を耕し、家畜を育てはじめる。これは農業革命と呼ばれる。興味深いのは、筆者はそれを個々人にとってはむしろ不幸なことだったといっていることだ。家畜由来の病気が、密集して暮らすせいで、流行する。作物を育てるのは重労働で、食料の量やバラエティーも狩猟・採集より減少し、気候や病害により飢饉に陥る可能性も高かった。それでもいったんはじめたものはやめられない。ただ、これで養える人口は圧倒的に増えた。

最後の科学革命はわずか500年前だ。これまで自分たちはすでになんでも知っていると思い、古典や経典の中に真理を求めていたサピエンスは、自分たちの無知を認め、外の世界の経験的な事実から真理を構築するようになった。それは科学者たちの営為単独では、不可能で、帝国主義による資源や領土の拡張、資本主義による投資の促進があってこそのものだった。それまで辺境といってよかったヨーロッパで科学革命が起きた理由もそこに求められるようだ。

科学革命によりサピエンスはあたかも神のように地球全体の支配者になり、全人類が属するひとつの大きな帝国を築き、これまでにない平和を享受しているが、それで個々人は幸せになったかというのが、農業革命の項にでてきたように、本書で投げかける大きな問だ。いくつか幸福の見積方法が紹介されているが、われわれは各人の幸せや苦しみの歴史について真剣に取り組むべきだという結論で締めくくられている。さらにサピエンス以外の動物たちが被っている深刻な苦境についても触れられている。

最後は次作の『ホモ・デウス』の序文のような感じで、サピエンスを越える未来の人間の誕生について書かれている。

まったく新しい意外な記述というのはあまりないのだけど、これだけ見通しよくサピエンスの歴史を紹介した本というのはいままでありそうでなかった。しかもとても読みやすくおもしろい。何を語るにせよ、ここに書かれていることは前提としておいてほしいと思わせるような本だった。

★★★★