Lewis Dartnel “The Knowlegde - How To Rebuild Our World From Scratch”
定冠詞をつけて『ザ・知識』と題された本。仮に今の文明世界が何らかの理由で滅亡して科学技術が失われた場合、一から復旧させるために必要な知識をまとめている。
(『この世界が消えたあとの 科学文明のつくりかた 』というタイトルで邦訳され文庫化もされているのだが、なぜ英語版を読んだかというと、訳がよくないというレヴューをみたのと、次の本を読むまでの時間かせぎをしつつ英語の勉強をしたかったからだ。時間稼ぎといいつつ2か月近くかかってしまい、さすがに稼ぎすぎだ)
取り上げられている技術分野は以下の通り。
- 農業(肥料、除草剤、殺虫剤)
- 食料と衣類
- 酸やアルカリなど化学物質の合成
- 粘土、石灰、金属やガラスなどの資源
- 薬品
- 水力、風力、電力による人力の労苦の削減
- 交通・輸送
- コミュニケーション
- 火薬と写真
- 現在時刻と位置の確認
- 測定と単位
世界の滅亡というSF的な状況に向けて書かれた体裁をとっているけど、主眼は、それを通じて、ぼくらの文明を成立させている本質的な科学技術はどういうものなのかを紹介することにある気がする。11章では、多数の人々に影響を与えたという観点からは、20世紀で最も重要な技術の進展は、飛行機でも、抗生物質でも、コンピュータでも、原子力でもなく、アンモニアの合成だといっている。これにより農作物に必要な肥料が制約なしに作れるようになったのだ。さらには、明示的に書かれているわけじゃないけど、再生不可能な化石燃料に頼って、細分化、局所最適化しすぎた、われわれの文明への批判を感じた。本質から離れているんじゃないかという。
理系出身なので、本書に書かれていることはなんとなく記憶にひっかかっていたけど、生きた知識になってなかった。英語で読んだので専門用語のボキャブラリーも増えたことを含め、とても勉強になった。
当然、技術的な内容がほとんどだが、ひとつそれ以外で重要な指摘だと思うのが、科学技術が発達するためには社会経済学的な環境条件が必要だということ。14世紀の中国は、資源や技術の点では18世紀の英国が持っている条件をすべて備えていたが、産業革命は前者ではおきず後者でおきた。その理由は労働力の価格の違いだという。当時の中国では安価に労働力を調達できたので、それ以上の技術革新をしようというモチベーションが発生せず、結果として停滞してしまったのだという。これもまた学ぶべき知識だ。
★★★